2011年東北地方太平洋沖地震の際に発生した津波の後の生物群集の変遷を、気仙沼の舞根湾をフィールドに調査してきました。津波の後、クラゲが大量に発生したことは潜水目視観察でわかっていましたが、それ以前の定量的な情報はありません。そこで、堆積物の環境DNAに注目しました。まず、京都大学舞鶴水産実験所で水槽実験を行い、堆積物には魚のDNAが1年間にわたり保存されることを確認しました。続いて、津波から6年後の気仙沼舞根湾において、堆積物のコアサンプル(柱状の試料)を採取し、これを層別に分析しました。その結果、石油由来の芳香族炭化水素を多く含む層の直上で、クラゲのDNAの含有量が最大となることが確認できました。気仙沼では、津波の際に多量の石油が流出しています。これもふまえると、津波による一時的な環境劣化で、クラゲの大発生が起きていたことがわかります。本研究は、堆積物の環境DNAが数年前の環境イベントを定量的に調べる上で有用であることを示した初めての試みです。
本成果は、2021年8月20日にイギリスの国際学術誌Scientific Reportsにオンライン掲載されました。
研究グループの構成員:京都大学 フィールド科学教育研究センター 益田玲爾教授、尾形瑞紀 同大学院生(研究当時、現:ベネッセコーポレーション)、山下洋 同名誉教授、神戸女学院大学 人間科学部 張野宏也教授、神戸大学 人間発達環境学研究科 坂田雅之学術研究員、源利文 同教授、NPO法人森は海の恋人 畠山信副理事長、東京都立大学 都市環境科学研究科 横山勝英教授

堆積物のコアサンプルを層別に分析し、津波を表すサインの直上でクラゲの環境DNAが最大となった。
背景
2011年5月から2ヶ月に1回、気仙沼市の舞根湾周辺において潜水調査を行い、津波後の海の回復の様子を記録しています(図2)。津波から5年間の変化を取りまとめた前報では、津波による大規模な撹乱の直後、クラゲ類の大量発生があり、以後、寿命の短い生物から長い生物へと徐々に回復する様子を報告しました(Masuda他 2016 PLoS ONE,図3)。しかし、津波以前の生態系については、比較可能な情報がなく、「回復したと言えるのだろうか」との疑問が投げかけられてきました。
そこで本研究では、堆積物の環境DNAを